「仲むつまじくて、いつも幸せそう。うらやましいわ」と隣人に言われ、微笑む一家。威厳のある祖父(ソン・ビョンホ)、優しい夫(チョン・ウ)、おしとやかで貞淑な妻(キム・ユミ)、そして彼らを敬う娘(パク・ソヨン)、まさに理想の韓国家族だ。
ところが、家に入りドアを閉めると妻は豹変、荷物を放り投げると、鬼のような形相で祖父の足を蹴りあげる。彼らの本当の顔は、家族を演じる北朝鮮のスパイ「ツツジ班」。昼間の楽しそうな家族ドライブは、軍事地域を撮影する任務だった。妻役のベク班長は、祖父役のミョンシクと夫役のジェホンの些細な失敗を叱責する。
夕食の席で、「朝鮮にいる妹より贅沢だ」と箸が止まる娘役のミンジ。ベク班長は「健康を保ち、任務を果たせば、また家族と暮らせる」と指導する。彼らには、食事すらも任務の一環なのだ。その時、隣家から怒鳴り合う声が聞こえる。「これが晩メシかよ!」「嫌なら出てって!」「毎日ケンカするな!」
勝ち誇ったように「まさに資本主義の限界だ」と毒づく班長。「我ら朝鮮は決して堕落してはならない」という班長の訓示に、3人は一斉に背筋を伸ばす。
嘆いてばかりの祖母、自己中心的な夫、料理一つ出来ない浪費家の妻、そんな両親に敬意の欠片もない息子のチャンス─隣の韓国人一家は、どうしようもないダメ家族だった。
ツツジ班に脱北者の暗殺指令が下る。班長はジェホンに実行を命じるが、怖気づいて取り逃がし、代わりにミョンシクが息の根を止める。「腰抜けめ」と班長に平手打ちされ、涙を流すジェホン。
過酷な任務に身も心もギリギリの4人の家の庭に、鳥の死骸が投げ入れられる。犯人は隣の妻だ。我が身を鳥に重ねたミョンシクがジェホンに、「国に40年間従ってきたが何も変わらない」と、珍しく愚痴をこぼす。だが、聞き耳を立てていた班長に「たるんでいる」と活を入れられ、足首に砂袋をつけて庭を走らされる。
またしても脱北者暗殺の指令が下るが、班長から夫婦と赤ん坊がターゲットだと聞いた3人は動揺する。「模範を示す」と宣言した、いつも非情な班長さえも、「ママ」と泣き叫ぶ赤ん坊を、どうしても撃てない。彼らの任務はすべて監視されている。失敗すれば、母国に置いて来た家族の命が危ない。4人は何よりもそれを恐れていた。ミンジは代わりに暗殺を完了し、班長を非難すると共に自分の犯した業に激しく動揺する。そんな緊迫した状況のすぐ隣家では、まるで緊張感のない、くだらないケンカが繰り広げられていた。
4人は祖国に残した家族に手紙を出すことを許される。ミンジは「父さんに会いたい」と、ミョンシクは家族に「もう10年だな」と書くが、ジェホンは前回返事がなかった妻の身が心配で、「俺は」の後が続かない。
そんな時、隣家から、祖母の誕生パーティに招かれ、渋々応じる4人。なぜか班長がグイグイとワインを飲み、酔っぱらってしまう。帰宅した班長は自分も今日が誕生日だと打ち明け、「あんなに言い争う家族が、妙にうらやましい」と漏らす。夫亡き後、ただ一人の家族である娘が、堪らなく恋しくなったのだ。
翌週、ミンジの誕生日だと聞いた隣の家族が、今度はワインとケーキを手に押し掛けて来る。学校でイジメられているチャンスをミンジが助け、二人は互いに好意を抱いていた。ニュースを見ながら北を批判する隣の家族に、ついムキになって反論する4人。だが、最後にミンジは「南北両国が心を開いて話し合うべきだ」と主張、一家を盗聴する党の人間にマークされてしまう。
偽りのない感情をぶつけ合う隣の家族への憧れが、封印していた人間らしい感情を目覚めさせ、4人は互いを思いやるようになっていく。そんな中、ジェホンの妻が脱北に失敗したと聞いた班長は、大手柄を立てて彼女を釈放させようと考え、“転向した反逆者”である北朝鮮の元将校を独断で暗殺する。ところが、彼は北に機密を送る、重要な二重スパイだった。
大失態を犯した一家には、自殺命令が下される。さらに母国の家族の命を救いたければ、堕落の原因である隣の家族を皆殺しにしろと命令される。究極の選択を突き付けられた4人が選んだ、最後の道とは─?